「踊るシネマの世界」へ
なんというか、映画に嵌まっていた頃があり、雑文を書きまくっていた。
WEEKLY TODAY'S CINEMA 7 2005~2006
【きょうの映画】
★★★☆
*67 「トム・ヤン・クン!」(プラッチャヤー・ピンゲーオ監督。パンナー・リットグライ=アクション監督。トニー・ジャー。ネイサン・ジョーンズ。ペットターイ・ウォンカムラオ)
宣伝資料に次のように書いてあります。
「あの『マッハ!』軍団が! 世界中で稼いだ金をすべてつぎこみ!! 遂に完成させた、前人未到・空前絶後・縦横無尽のアクション超大作に挑む!!! 『マッハ!』軍団には、超えなければならないハードルがある。『マッハ!』で目が肥えた世界中のアクションファン達を歓喜させ、唸らせることだ! CGなし、ワイヤーなし、スタントなしはもはや当たり前。今度のムエタイは関節技までノーCG!! 運河を舞台にした壮絶ボート・アクション、そして4階建てのセットを舞台に敵をバッタバッタとなぎ倒す、4分間長回しワンショットの超絶アクションは瞬きすら許されない!カンフー、剣術、カポエイラ、プロレス…次々に襲いかかる敵にトニーのムエタイは通用するのか?! 興奮に次ぐ興奮で痙攣(けいれん)必至、アクション映画界の至宝がいま生まれる!」
大げさです。でも、実にこれが本当なのだ。格闘映画シーンにアジアの最深部から現れたムエタイ戦士トニー・ジャー。ブルース・リーに敬意を払い、ジャッキー・チェンを追う男は今回もハリウッド風のゆるいCGアクションを、生身の人間パワーで吹き飛ばす。第三世界がハリウッド帝国を追い詰めた会心作である。
親のように親しみ弟のようにかわいがっていた2頭の象が密売組織に奪われてしまった。奪回を誓うタイの青年は組織を追って、オーストラリアへ。そこで、タイ移住者の女は売春、男も下層社会を這いまわっている現実を見つつ、腐敗せる白人や華僑組織に単身立ち向かっていく。武器は銃ではない。鍛えた体で培った古式ムエタイ。立ちはだかる敵をキックで関節技で、文字通り打ち砕いていく。まさにブルース・リー「怒りの鉄拳」である。吹き替えなし、ノーカットのアクションシーンは圧巻だ。
前作「マッハ!」もすごかった。引用で恐縮だが、私は次のように書いた(2004年8月)。
「燃えよドラゴン」の登場から31年−。早すぎる死を迎えたカンフーの達人ブルース・リーはしかし、「アチョー」の雄たけびとともに、その後の武術映画の流れを決定づけた。/ 彼の死後、ジャッキー・チェンを頂点にスチーブン・セガールやジェット・リーなどへと格闘系映画は広がるが、彼の天才には及ばなかった。/ だが、時は来たれり。ヒーローは南国タイから熱波のごとく現れた。その名はトニー・ジャー。もう一度。トニー・ジャー。間違いなく格闘映画史に名を残すだろう。/ 彼の役はムエタイ(一般的にはタイ式ボクシング)の達人。村の大切な仏像が盗まれたため、村人の願いを背にバンコクに行き、破邪顕正の鉄拳を駆使し悪党と戦う。/ 超絶武闘は文句なしの金メダルだ! ワイヤアクションの「マトリックス」など「本物」のムエタイの前では顔色なし。しかも痛い。ビシビシと拳と足が敵に食い込む。自在に人間の肩の上を飛び、狭いすき間を抜け、車の下をくぐる。ジャッキー・チェンへの敬意を忘れてないのもいい。/ 農村と都市、アジアと欧米文化の矛盾など苦悩するタイの現在も描いて骨太だ。ヒーロー誕生!見るべし!
第2作も期待を裏切っていない。脚本にもう少しテンポや変化を持たせたい希望はある。それでも、なおかつすごい。トニー・ジャーVS悪漢49人(だそうだ)の対決は「マトリックス」のネオ対エージェント・スミスのコピーの戦いよりもすごい。迷わず、見るしかない。ちゃんと、優しいタイの心が描かれているのもいい。
★
*68 「連理の枝」(キム・ソンジュン監督・脚本。チェ・ジウ。チョ・ハンソン。チェ・ソングク。ソ・ヨンヒ)
「冬のソナタ」で一世風靡の「涙の女王」チェ・ジウ主演の純愛物語です。今回のミラクルは出生の秘密ならぬ、難病という秘密です。それって、凡庸?
青年実業家ミンス。ゲームおたくの成れの果てらしく、軽い。女好き。隣の車の女の子に色目を使っているうちに事故を起こし、先輩の車に乗せられて病院へ。雨のバス停で、水しぶきをとばしてしまう。気になって戻ると、そこには美しく純粋そうな女性ヘウォンが立っていました。一瞬で恋に落ちる2人。なんだかんだ駆け引きをしながらもお互いの気持ちを確かめていく。だが、デート中に突然倒れるヘウォン。彼女は原発性の難病に冒されていたのです。そのことを知って、ミンスは苦しみます。だが、最後の恋に命を懸けて生きようとする。2人は白楽天の長恨歌にあるように、「比翼の鳥連理の枝」のように深く愛し合っているのです。
ここまではよくあるが、ミンスに秘密があるのがミソか。つまり、ヘウォンの視点から見直すと、もう一つの深い愛が浮かび上がってくるというわけです。チェ・ジウはどうか。美人だけど、なんか暗い。難病だからしょうがないけど。少し老けてしまったような感じで、魅力いまひとつでした。中村俊輔顔のチョ・ハンソンは、笑顔がウリなのでしょうが、タイプじゃないなあ、って、私が言っても仕方ありませんが。
★☆
*69 「V フォー・ヴェンデッタ」(ジェイムズ・マクティーグ監督。ナタリー・ポートマン。ヒューゴ・ウィービング)
「マトリックス」のウォシャウスキー兄弟の脚本による近未来フィクション。
アメリカによる世界大戦後に、イギリスはファシズム化し独裁国家となっていました。夜間外出禁止令の中、テレビマンに会いに出かけようとした女性イヴィーは、好き放題を働く自警団に襲われるが、Vと名乗るなぞの仮面の男に救われます。誘われてイヴィーは中央刑事裁判所の爆破を目撃するのです。Vは自由を認めない国家体制を糾弾し、戦っているようです。テレビジャックしたVは11月5日、伝説の「ガイ・フォークス・デー」に国会議事堂前に市民は結集するよう呼びかけます。さらに、人体実験から辛くも生き残った彼は、秘密収容所の幹部だった有力者たちを暗殺していくのです。イヴィーは両親と兄弟を殺されており、過酷な試練の中で、反発しつつもVを理解していきます。
マルガリータならぬ丸刈りで、「レオン」の美少女ナタリー・ポートマンが体当たりで演技をしています。主役のVはおちゃらけ仮面のままで、素顔を見せませんので、ほとんどナタリーのショーと言っていい感じです。圧制に対しては、民衆の決起が許されるという革命思想を堂々と肯定して、それをイギリスの伝統の上に求めています。びっくりですね。もちろん、圧制国家はナチス・ドイツやオーウェルの「1984」のカリカチュアですが、「元アメリカ合衆国」の没落をからかっているように、現在の米国の陰画であることは言うまでもなりません。
この映画が期待どおりの面白さか、と言うと違います。ラストはともかく、Vの私怨(しえん)いっぱいの復讐(ふくしゅう)劇には共感はわきません。できれば、もっと軽く「ゾロ」のようにはいかなくても、暴れて欲しいというのが、ミーハーの私の希望です。さらに、ナタリーをしごくのは、決意を確かめるため(あるいは愛の裏返し)かもしれませんが、一種のサディズムですね。そういう形で生まれた戦士は必ず歪(ゆが)みます。そこがいけません。
★
*70 「ダ・ヴィンチ・コード」(ロン・ハワード監督。トム・ハンクス。オドレイ・トトゥ。イアン・マッケラン。ジャン・レノ)
それにしても、5月20日。日本中の映画館はどこもかしこも「ダ・ヴィンチ・コード」であふれ返ってしまった。「今年最大の事件がついに始まる」にしても、そんなに本作を上映しなきゃならんほど映画界は作品不足なのか。そう、へそを曲げたくなるほどの過熱ぶりであります。
もちろん原作は「ダン・ブラウン」の世界的ベストセラーであります。レオナルド・ダ・ヴィンチと言えば「モナ・リザ」ですが、「最後の晩餐(ばんさん)」には秘密が隠されていたというわけですね。それはマグダラのマリアをめぐるキリスト教信仰の根幹にかかわる問題です。その秘密をめぐって、闇の勢力がぶつかり合うわけです。ちなみに、書店には原作はもちろん関連本も山のように積まれており、それにもあきれます。
ストーリー。ルーブル美術館の館長がダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」を模したダイイング・メッセージを残して死んだ。パリにいたハーバード大学教授のラングドンは不可解な暗号の謎解きの協力を求められる。しかし、彼は第一容疑者だった。ファーシュ警部に追われるが、暗号解読官ソフィーに助けられ、からくも逃げ出す。2人はその真相に迫ろうとするが、秘密結社のテロリストたちが暗躍しており、激しい緊張が続きます。そして、謎は解けるのか?
テンプル騎士団やらシオン修道会やら、怪しげな集団がいっぱい出てきます。確かに、バチカンがこの映画を快く思わないのもむべなるかな、と思いました。キリストにも妻がいて子供がいて、その血脈が現代まで続いているそうです。真偽はわかりませんが、別にいいんじゃないの、と思います。なにせ、私は無神論者ですし、強いて言えば唯物論者ですから、人間が神になるなんてのはイメージ(幻想)の世界での物語にすぎないと思っていますからね。できれば、キリストの子孫がイスラムやブッディストだったら面白いなあなどと不謹慎なことまで考えてしまいます。キリスト教の女性蔑視(べっし)に対する批判もあるのでしょうが、そこはあいまいですね。
そうそう映画として、面白いのかどうかですね。私にはいまひとつでした。謎解き映画にしては、割と簡単に「黒幕」がわかってしまうので、どうなのでしょう。
★★☆
*71 「アンジェラ」(リュック・ベッソン監督。リー・ラスムッセン。ジャメル・ドゥブーズ)
リュック・ベッソンです。まあ、製作者としてはしょうもない作品(別に、わが広末涼子さんの出ていた「WASABI」を言っているわけじゃありません)をずいぶんプロデュースもしておりますが、根無し草の私としては「レオン」一作で、ジャン・レノ&ナタリー・ポートマンを含め、高く支持しております。「ジャンヌ・ダルク」「フィフス・エレメント」「グラン・ブルー」なども、気に入らないところもありますが、さすがです。「ダ・ヴィンチ・コード」もパリのマチが舞台でしたが、こちらはパリのマチが主役のひとつという感じです。
で、本作。ルーツはモロッコらしいアメリカ人のアンドレ。一旗あげるべくパリにやってきたものの、あちこちの危ない人たちから多額の借金をしてしまった。返却タイムリミットは48時間。もはや絶体絶命。セーヌ川に身を投げようとしたとき、隣に絶世の美女が立っていた。先に飛び込んだ美女を救うべく、後を追うアンドレ。救いあげた美女の名はアンジェラ。彼女の後を付いていくと、不思議なことにすべてはうまくいくのだった。なぜか。アンジェラは彼を立ち直らせるために、天からやってきた天使だったのだ…。
今回の大人の童話のキモはアンジェラその人でしかありません。彼女があってこその映画。昔のベッソン映画で言えば、ミラ・ジョボビッチですね。今回はグッチ専属のスーパーモデルのリー・ラスムッセン。地上に降りた天使は「娼婦(しょうふ)スタイル」が希望だったそうですが、とにかく、背は高いし、金髪はきれいだし(もっとも映画はモノクロなので、本当の色はわかりません)、スタイル抜群の美女です。彼女の美しさを見せるための映画です。そういう美女が自分の天使に付いてくれるなら、一応無神論は棚上げにして、私も神を信じてしまいそうです。
☆☆☆
*72 「ジャケット」(ジョン・メイブリー監督。エイドリアン・ブロディ。キーラ・ナイトレイ。ジェニファー・ジェイソン・リー)
1992年の湾岸戦争。少年の放った銃弾が頭部に当たり、青年ジャックは死にかけ記憶障害になる。ヒッチハイクの途中で、エンストを起こした車の母子を救い、認識票を少女に渡す。だが、続けて殺人事件に巻き込まれ精神病院に送られてしまう。そこで、非人道的な拘束衣(ジャケット)を着せられ、死体安置用の引き出しの中に閉じ込められる。どうしょうもなき孤独の果てに気づくと、2007年の世界にタイムスリップしていた。そこで出会った女性ジャッキーは、ジャックが4日後に死ぬことを告げる。なぜ自分は死ぬのか? ジャケットに拘束されながら、未来に行くジャックはジャッキーに助けられ、死の真相に迫っていく。そして、彼は1992年、瀕死の中、病院を抜け出し、一通の手紙を母子に届けるのだった−。
「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディと人気上昇中の美女キーラ・ナイトレイの共演です。「グッドナイト&グッドラック」(未見)のジョージ・クルーニーとスティーブン・ソダーバーグの共同プロデュース。当然ながら、なかなか印象深く、考えさせる出来になっています。人間は基本的には生まれて育って死にます。これは逆戻りできません。しかし、いったん、自分が死んだ後の世界を見届けて、戻ってくることができたら何かが変わるのでしょうか。しかも、何かをできる猶予期間は4日間。死を止めることはできなくても、だれかのために何かができるかもしれません。不思議な物語です。
★★☆
*73 「ポセイドン」(ウォルフガング・ペーターゼン監督。ジョシュ・ルーカス。カート・ラッセル。エミー・ロッサム。リチャード・ドレイファス)
監督は「パーフェクト・ストーム」で史上最悪の暴風雨に消えた漁船をリアルに描いているだけに、海の恐怖を映像化するのは得意なのでしょうが、それにしても水をいっぱい飲まされた気分になるすごい映画です。
私も昔見ましたが、言うまでもなく1972年のジーン・ハックマン主演「ポセイドン・アドベンチャー」のリメークです。あの作品で覚えているのは、登場人物が最後の時を前に、さまざまな人生模様を語り合うことで、「パニック映画とは告白映画」ということでした。本作ももちろん意味ありげな人々がたくさん登場してくるのですが、実写と特撮による船内の大混乱が迫力満点。ノンストップな感じで続きます。トップシーンで豪華客船をぐるりと眺めまわすのですが、その時点で、さすがハリウッドはでかいものをつくるなあとあきれるというか、びっくりします。撮影には9万ガロンの水が使われたそうです。
さて、物語は新年を船上で迎えようと、歌とダンスで盛り上がる大みそかの夜の人々の表情から始まります。超豪華客船ポセイドン号は北大西洋を順調に航海中です。しかし、クルーは異様な海上の異様な静けさに、不安を感じます。案の定、大津波が迫っていたのです。そして、一瞬にして船は転覆、乗客の多くは死に、生き残った者も大きなビルが上下さかさまになったような船内に閉じ込められます。その中で、元ニューヨーク市長のラムジー(カート・ラッセル)は、数人とともに脱出口を求めて死闘を開始します。
リーダー役のカート・ラッセルは、元市長で元消防士という設定。「バックドラフト」を思い出しますね。確か監督は「ダ・ヴィンチ・コード」のロン・ハワードだったような気がします。つながりますね。孤独なギャンブラー役のジョシュ・ルーカスも、いい男で光っています。ラッセルの娘ジェニファー役のエミー・ロッサムは「オペラ座の怪人」のヒロイン、クリスティーヌ役で、美声を披露したのが記憶に新しいですね。ストーリー的には、これまでのパニック映画のお決まりのコースをそつなくこなした感じですが、大水量だけで、十分楽しめます。
★★☆☆
*74 「トランスポーター2」(ルイ・レテリエ監督。ジェイスン・ステイサム。アンバー・ヴァレッタ。マシュー・モディーン。ケイト・ノタ)
リュック・ベッソン製作・脚本。
1・契約厳守。2・名前は聞かない。3・依頼品は開けない―そのルールを一つでも破れば、死。なんだそうだ。そのプロの運び屋フランクが今回は舞台をマイアミに移し、金持ち一家の息子・ジャックの送迎役をしていた。しかし、麻薬撲滅サミットをめぐって、陰謀がうごめいていた。セクシーだけれど残酷な女殺し屋に狙われて、壮絶な戦いとカーレースに巻き込まれていく。身代金誘拐に見えた事件は解決したかに見えたが、時限爆弾のような殺人ウイルスが仕込まれていた。解毒剤を入手し、事件を解決することができるかのか。残された時間は24時間。「約束は必ず守る」。プロのプライドがさく裂します。
テレビで第1作を見ました。主役のジェイスン・ステイサム。知りません。なに?「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」に出ていた? 男臭いわけだ。器用な役者じゃなさそうですが、運び屋ははまり役ですね。カーチェイスに加えて、カンフー系のアクション。これもユーモラスな転調を交えて、光ります。とかく、もたつきが目立つ大作が多いが、本作はまったくすきなし。ぜい肉をそぎ落として、ノンストップでアクションが展開します。本当に、「カイカーン」(C・薬師丸ひろ子?)です。ハイソな夫とのすれ違いに惑う母親(フランクにちょっとだけ迫ります)、殺人が趣味という美人のヒットウーマン(フランクをいろんな意味でなめています)、育ち盛りの子ども(フランクを慕っています)、そして勘違いな夫(フランクを疑っています)、それにフランスの刑事(フランクとお友だちでマイアミまでやってきます)など、人物の描き方が見事です。ちなみに、私は車はわかりませんが、アウディだそうで、こちらもカッコいいのでファンにはたまらんでしょう。
当然、ラストシーンで次の運び屋依頼もあったようですし、映画は大ヒットしているので、「トラポ3」ができるのは確実。案外、トム・クルーズの「M:I−3」より期待できるかも。リュック・ベッソンははずれることも多いが、はまると面白いですね。
★★
*75 「灯台守の恋」(フィリップ・リオレ監督。サンドリーヌ・ボネール。フィリップ・トレトン。グレゴリ・デランジェール)
今回は「きょうの映画」コーナーBとCには、書きそびれた作品から2つを選びました。機会がありましたら、DVDなどでご覧ください。
まず、「灯台守」の物語。「喜びも悲しみも幾歳月」ではありませんが、やはり、灯台守はイマジネーションを触発されるのでしょうか。
1963年、フランスはブルターニュの小島。まるで「世界の果て」のよう。そこで繰り広げられた恋物語。そして、現在。家を売ることになった娘が、偶然、亡き母あてに届けられた一冊の小説を通じて、そのことを知る。
タイトルからして、少しエッチぽいじゃないですか。いかにも訳ありで。まさに、そうした期待に応えるような三角関係。島で生きる美しすぎる人妻。本当はよそ者だけど妻を愛し根っからの土地の者になりつつある灯台守。そこに、アルジェリア戦線から負傷兵として戻ってきた灯台守見習いの美青年。はい。いきなり恋に落ちてしまいます。
夫は一途な青年をかわいがっているだけに、三角関係はかわいそうです。しかも、彼は一生懸命励めども子供ができない。で、革命記念日の夜。夫は灯台で花火を上げている。妻は青年と一線を越えてしまいます。そのことを知られた青年は結局、嵐の夜、夫との勤務を最後に島から姿を消します。そして、妻はかわいい娘を生んだようです。
流れ者というのでしょうか。そうした人間がこの世に何かをもたらします。それは災いであると同時に福でもあるのです。映画はそうしたコードをかっちりと守っていますので安心してみていられますね。もう少し、ドロドロ、あるいはエロエロを期待する向きには少し物足りなさも残りました。それから、アルジェリアでのフランスの戦争。農民を捕まえて、油しぼり機械で腕をへし折るというエピソード。あれは実感がこもっていました。あのシーンで、みんな青年をからかうことができなくなってしまいました。戦争の悲劇と残虐さが露出した瞬間でした。
★★★
*76 「ファイヤーウォール」(リチャード・ロンクレイン監督。ハリソン・フォード。ポール・ベタニー。バージニア・マドセン)
衰えたインディー・ジョーンズなんか見たくない。と思ったが。でも、年をとれば取ったなりに、それはまた結構な味を出していましたハリソン・フォード。映画もムダを省いて気持ちのいいペースで、面白かった。
で、わがハリソン・フォード。今回は銀行の危機管理のコンピューター・スペシャリストとして腕を振るっています。銀行は合併話の真っ最中で、どうすればリスクを減らせるかでもめております。そんなジャック(ハリソン・フォード)に、IT銀行強盗団が目をつけます。家族を監禁し、脅して銀行のセキュリティーを破り、1億ドルをネットで口座に振り込ませようという作戦。いろいろ抵抗しますが、結局は銀行の監視の目を盗み、振り込まされます。しかし、それから反攻開始。元秘書の協力を得て、強盗団の弱点を突いていきます。アメリカ映画ですから、最後はもちろんハッピーエンド。
ハリソン・フォードはがんばっていて、映画のテンポもいいし、楽しめました。最大の疑問は、セキュリティー責任者1人を操ることで、そんなに簡単に大金を動かせるのかどうかということだな。そんな銀行は危ないと思う。シアトルの設定でしたか? 最後に、振り込みをチャラにするのですが、でも完全に犯罪者ですよ。途中までは。そのために、仲間はだますし、秘書をクビにするわ、まじめな危機管理のカウンターパートナーを突き飛ばすし。メチャクチャです。それでも、最後は家族愛が勝つ。そのわがままがアメリカですね。でも、楽しめる映画でした。
☆☆☆
*77 「インサイド・マン」(スパイク・リー監督。デンゼル・ワシントン。クライブ・オーウェン。ジョディ・フォスター)
監督は「サマー・オブ・サム」のスパイク・リー。内容は忘れたけど、ジョン・レグイザモの演技が不思議に記憶に残っていますね。
で、本作。銀行を襲った強盗団の完全犯罪の物語。しかも、見事な計画に加えて、犯罪の真の狙いが明らかになるに及んで、なんともスケールの大きい物語に広がってしまうのだから、すごいことだ。ラッセル・ジェウィルスという人の脚本だそうだが、銀行襲撃の完全犯罪指南としても読めるほど(これって、共謀罪にはならないか)、よくできているのだ。しかも、人をあやめず、武器も実は武器じゃないのも、時節がら立派です。
マンハッタンの信託銀行の支店。白昼に強盗グループが押し入り、従業員や客ら50人を人質に取り、立てこもる。犯人側は全員を下着姿にし、同じ服を着せる。犯人側からは要求めいたものが出るが、いずれもどこか緊迫性に欠けている。ムダに時間が過ぎていくうちに、銀行の会長からの依頼を受けた女弁護士がニューヨーク市長の仲介で登場。犯人との交渉役の刑事は犯人と銀行側の対応に裏があると感じる。しかし、警察の強行突入で、人質は全員解放される。だが、犯人の姿もない。人質にまぎれてしまったらしい。しかも、犠牲者もなく、盗まれたものも見当たらない。ならば、犯罪はなかったことに、と上司は指示する。だが、刑事は弁護士の動きから、奥に隠された戦争犯罪に迫る。
ネタばれで恐縮ですが、隠された戦争犯罪とは「ユダヤ人に対するナチスの暴虐とそれへの協力」ということです。それが、戦後60年以上過ぎた現在でも時効になっていないのがすごい。欧米は徹底的ですね。海の向こうの出来事として見るでしょうが、これを戦前の日本の戦争犯罪に置き換えるというのは想像力のいることです。日本人はきっと「面白い」作品として、深刻なものとしてはこの映画を見ないでしょう。でも、歴史観の崩れが指摘される現在、私は結構、心が痛くなります。複雑な気持ちです。
★
*78 「アルフィー」(チャールズ・シャイア監督。ジュード・ロウ。マリサ・トメイ)
今回も、書きそびれた作品2本のレビューを掲載します。
一言でまとめると、プレイボーイも楽じゃないよ、ということか。「人生はワインと女性」というイギリス男のアルフィー。今はニューヨークのマンハッタンに住み、リムジンの運転手をしながら、日夜、女性たちと楽しんでいる。しゃれた会話と美丈夫ぶりは女たちを引きつけるが、やすらぎは与えない。そんな彼が最後に突き当たるのは孤独だ。女性たちは生活の安定を求め、アルフィーから離れていく。そして、色男も若い男がライバルとなり、追いつめられていきます。
愛のないセックスで幸せをつかみ、上昇志向の夢が現実になるのか。それはいささか難しい。がんばれ、だて男! いかんせん内容がない。その代わり、衣装はブランド品を身につけ、本当にぜいたくだ。男がいつまでもばかげた夢を見続けるのに対して、女性のしなやかな強さが巧みに表現されています。男はさっぱり進歩していないが、女性たちはますます自立していくわなあ。わしらには厳しい現実だわな。1966年制作のマイケル・ケインによるヒット映画のリメークだそうです。
★★
*79 「旅するジーンズと16歳の夏」(ケン・クワピス監督。アンバー・タンブリン。アメリカ・フェレーラ。ブレイク・ライブリー)
固い友情で結ばれた4人の16歳の少女たち(原題では「シスターフード=姉妹関係」とある)。その夏を4人は初めて別々に過ごすことになった。旅立ちの前に、体形も身長も違うのに、ぴったりと合う不思議なジーンズを見つける。4人は交代でジーンズをはいて近況を知らせることを約束し、それぞれメキシコやギリシャなどに出発する。そこで4人は得難い新しい経験をするのです。
だれにでも合うジーンズなんかあろうはずがない。そんなの「うそじゃよ」と言っても始まらないだろうが、それは4人の精神=価値観の象徴だろう。同じように不安を抱えながらも、未知のものを受け入れようとする心の共同性でもあると理解します。
そして、物語は4つのパートでそれぞれに印象深いエピソードを刻む。移民の古里での祖先の確執、母と離婚した父が再婚する姿への葛藤(かっとう)、難病の女の子のおちゃめな姿にドキュメンタリー作家としての自己を再認識…。見ていて、4つの青春オムニバス映画のような印象です。
シスターフード(修道院的団結)の時代はそれぞれに終わる。だれもが、固有の体験を通じて一人の女として自立していくからだ。ジュブナイル(juvenile)を過ぎれば、人は思い出を抱えても甘美ではいられなくなるもの、ということでしょうか。
☆
*80 「オーメン」(ジョン・ムーア監督。リーヴ・シュレイバー。ミア・ファロー。ショーン・フィッツパトリック)
1976年の傑作ホラー(オカルト)映画のリメークです。
666。パチンコのフィーバーじゃありません。悪魔の数字です。今回は「9.11テロ」やらインドネシアの大地震やら、見たことのある光景も悪魔の子降臨のアイテムにされています。あとは、たぶん昔の映画とほぼ同じストーリーです(本当は違うかな。大体ね)。生まれてきたはずの実の子を亡くした外交官夫妻に病院の神父は身代わりの子どもを与えます。その子ダミアンこそ「反キリスト」の地上に災いをもたらす野獣の化身だったわけです。彼の周囲で不自然な死亡事件が起こります。その事実を知っているバチカンの使い、そしてカメラマンなどが真相に迫り、ダミアンを倒そうとするのですが…。
映像はシャープですし、ストーリーがわかっている分だけ、ハラハラする場面も多くありません。実は私はホラー残酷系の映画が大の苦手です。だって、怖いんだもん。だから、いつも見たいなあ、と思っても二の足を踏んでしまいます。本作は音響やら目の回るCG技術も派手ではなく、いい仕上がりになっています(本格ファンのみなさんには物足りないでしょうけど、スミマセン)。登場人物が本当はもうちょっと誇張してあれば、もっと楽しめました。
「オーメン」って結局は、神vs.悪魔の戦いですよね。それは親vs.子でもあるし、文明vs.野生でもあるし、秩序vs.混沌(こんとん)でもあるわけです。最初の作品は「猿の惑星」なんかと同じ時代に作られているわけで、そこには既成の価値観に対する叛旗が翻っていただろうと思います。ダミアンはずるいのですが、それでもどこかでダミアン的なものを応援していた人も多いのでしょう。それで、続編へとつながっていった。最終的には人間が勝つのでしょうが、まあ、そうでないと収まらないからだったと推測します。一応、親は正義の側にいると思っているから、子を十字架(それって、まったく中世の発想ですよね)ではりつけにして殺そうとします。なんか現代的です。それを警官が撃って子どもを助けるのですが、それがよかったのか悪かったのか。そこも考えさせられます。テーマの普遍性という点で、優れた作品だったとあらためて思いました。
■
シネマサイトのトップページに戻る
■トップページに戻る