シネマミーハーらくがき帳 1999〜2003
なんというか、映画に嵌まっていた頃があり、雑文を書きまくっていた。
シネマ・グラフィティ・ノート 2001年 その2
*17<391>「キャスト・アウェイ」
ロバート・ゼメキス監督。トム・ハンクス。ヘレン・ハント。
これはまもともな映画ではありません。最初から最後まで「Fedex」という記号だけが繰り返されます。本当に。全く。クロネコとかペリカンとかカンガルー印の映画って考えられます? そりゃ、ロビンソン・クルーソーさながらの無人島サバイバル劇あり、放り出されてしまった人間への現代社会の居心地の悪さとか。そんな物語はありますが、私にはフェデックスばかりが目に焼き付きます。
ロバート・ゼメキス監督はヘンですよ。こんなCM作って。「ホワット・ライズ・ビニース」もひどかったけど。
いちばん気に入ったのはバレーボールを自分の鏡とするエピソードです。でもそこにも「ウィルソン」って商品名ですもの。2時間24分のCMは長すぎますよ。
*18<392>「バガー・ヴァンスの伝説」
ロバート・レッドフォード監督。ウィル・スミス。マット・デイモン。シャーリーズ・セロン。
いうまでもなく僕はゴルフが嫌いである。諸般の事情から関心を持ったことがあるが、本当のところは好きではない。でも、世の中にはああいうゲームを好きな人がいるのは認める。さて、今回はゴルフ映画だ。
ゴルフを通じて何かを語ってくれるか、と期待したが、全くない。そりゃあ、意味ありげな「人間は自分のスウィングを持っている」とか、なんたらかんたらという言葉はあるが、感動もしない。自分を失った天才ゴルファーの前に現れる伝説のキャディーはペテン師以上には見えない。ナショナルな感情が恐慌の町に勇気を与えたのは分かったが。
*19<393>「スナッチ」
ガイ・リッチー監督。ブラッド・ピット。ベニチオ・デル・トロ。ビニー・ジョーンズ。
「ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」 を大ヒットさせたガイ・リッチー作品。
今回も怪しげなロンドンの悪党どもが入り乱れて騒動を繰り広げる。狙われ奪われる(スナッチ)のは、大きなダイヤモンド。
裏ボクシングのブローカーやら、意味不明の英語を使うパイキー?の飲んだくれボクサー。元KGBやらバクチ狂のギャングやら、黒人トリオに犬やら。一癖二癖ある人物らが、もつれにもつれた活劇を繰り広げる。
キャラクターが走りすぎて、なんだか印象が薄くなるのが欠点か。それでも随所に傑作なシーンやらアイデアをいっぱい詰め込んでいる。ハリウッドを離れて流浪民を演じるブラッド・ピットは結構いけてる。スターになっていなければ、意外とこんな人間のような気もする。軽快なテンポで、これだけうまくまとめると、上出来でしょう。諸行無常の世界を小気味よく描いた快作です。
*20<394>「プルーフ・オブ・ライフ」
テイラー・ハックフォード監督。メグ・ライアン。ラッセル・クロウ。デイビッド・モース。
男は保険会社のために、人質救出に活躍する交渉人。女は南米で石油会社のダム造りの技術者の妻。あるとき、反政府ゲリラに女の夫が拉致された。男は救出のためにイギリスからやってくるが、石油会社が保険金の支払いをやめたため救出作戦はストップしてしまう。そこで手を引くはずなのだが、男はなぜか個人的ボランティアとしてやってくる。
そして、夫を無事、救出する。めでたしめでたし。なんじゃ、それ。そう突っ込みたくなりますよね。つまり、男が女の夫救出のために馳せ参じる理由がはっきりしないんです。たぶん一目惚れだと思うけど。そこが曖昧。なんかウィドウ・モードに入った女が誘惑した感じでね。いやだね。
そしてボランティアにしては元特殊部隊メンバーが本当の戦闘をしちゃって。全くペイしないなあ。女とは一回のキスだけで、そこまで命懸けで金かけてやるか? しかも、「インサイダー」でたばこ会社告発役のクロウも、メグまでもたばこプカプカ。なんか不自然だぞ。この映画で2人ができちゃったそうだが、おかしな映画だ。
*21<395>「サトラレ」
本広克行監督。安藤政信。鈴木京香。内山理名。寺尾聰。八千草薫。
「踊る大捜査線」の本広克行監督作品。
日本国内には自分の思っていることが、他人に伝わってしまう人々がいた。彼らはみなIQ180以上の天才で、その存在は国家財産になっていた。7人目の男・里見健一は飛騨の街で外科医をしていた。その彼の才能を生かすべく薬学へのコース変更を図ろうと政府は考えた。そこに防衛医官の小松洋子が遣わされた。
一見、外科医には不向きと思われた孤独な天才は祖母との心の触れ合いがあった。結構、泣けます。設定なんか最初はデタラメな感じですが、だんだん現実感が増します。これって監督の力量でしょうか。いい映画です。
*22<396>「ハンニバル」
リドリー・スコット監督。アンソニー・ホプキンス。ジュリアン・ムーア。ゲーリー・オールドマン。
「羊たちの沈黙」のレクター博士。彼は脱走してフィレンツェに司書として暮らしていた。彼を捜しているのは警察だけではない。昔、顔の皮をはがされた大富豪もまた復讐に燃えていた。
FBIの女捜査官クラリス・スターリングに再び出番がやってきた。金と復讐の亡者たちとレクター博士との闘い。そして、クラリスとレクター博士の奇妙な愛が繰り広げられる。それにしても、レクター博士とは気の触れた犯罪者でしょう。人間を食べるのが好きだなんていう人がヒーローでしょうか。
この倒錯した人物への過大なデコレーション。私は苦手です。驚かされたのはエンドクレジットに出てくるゲーリー・オールドマンの名前か。
*23<397>「ミート・ザ・ペアレンツ」
ジェイ・ローチ監督。ロバート・デ・ニーロ。ベン・スティラー。テリー・ボロ。
男は看護夫。幼稚園の先生の彼女と結婚したい。それには両親のOKを取るのが必要。で、飛行機の貨物トラブルに遭いながら辿り着いた家で待っていたのは。
元CIAの工作員で、人間嘘発見器オヤジ。盗撮あり、聞き耳あり、脅迫あり、名前イジメあり。ユダヤネタあり。男はさんざんな目に遭うのですが、それでも女の妹の結婚式はウンコまみれにしたり、家に火を付けるわ。なかなか派手に荒らし回ります。
ベン・スティラーはアダム・サンドラーのような役をそつなくやっています。デ・ニーロは凄いです。笑いながらこんなオヤジいそうだなあって、思うと怖いです。
*24<398>「ザ・セル」
ターセム監督。ジェニファー・ロペス。ヴィンス・ヴォーン。ヴィンセント・ドノフリオ。
精神的な病によって、女性を誘拐し水死させて性交に及ぶ男。この犯罪者を逮捕するが、彼はショックで昏睡状態だった。ビデオには被害者が殺されるまでの姿が映されていた。そして、まだ1人の女性が残されたままだった。時間は40時間。
そこで、患者の脳に治療者が転移する新治療システムが脚光を浴びる。女性心理学者が犯人の精神世界に入り込み、手掛かりを探そうとする。物語はほとんど陳腐ですし、盛り上がりもありません。
印象的なシーンだけが連続します。幻想的な精神風景。特に冒頭の砂丘シーンやラストのサクラなど。色遣いや衣装などはドキドキさせられます。惜しむらくは、それだけ。ジェニファー・ロペスも、期待ほどの演技も魅力も見せてくれません。
*25<399>「スターリングラード」
ジャン=ジャック・アノー監督。ジュード・ロウ。レイチェル・ワイズ。ジョセフ・ファインズ。エド・ハリス。
ソ連とナチス・ドイツの攻防の天王山となったスターリングラードの戦い。その渦中で活躍したソ連の伝説的スナイパー「ヴァシリ・ザイツェフ」を描く。
彼はウラルの羊飼いの家に生まれ、一発でオオカミを倒すべく仕込まれる。そして長じていきなり瓦礫の街と化したスターリングラードに投げ込まれる。まさにソ連軍は敗色濃厚。にもかかわらず共産党は突撃を命じ、逃げる者を撃つ。行くも地獄戻るも地獄。そこで、ヴァシリは射撃の腕を生かして戦果をあげる。共産党宣伝部は彼を英雄の狙撃兵としてまつりあげていく。一方、ドイツ軍は英雄登場に怒り、彼を狙う仕事人を送り込む。
こうなると、なんか武蔵と小次郎みたいな真剣勝負話なのだ。そして、共産党宣伝部員とユダヤ人の女性兵士ターニャとの三角関係も挟まれる。この映画の冒頭シーンは「プライベート・ライアン」以来の戦争シーンのレベルを超越。この川の向こうの見える町の破壊ぶりに戦争の悲惨さが浮き彫りになります。
つかみはOKですが、途中はなかだるみでしょうか。戦争というよりは、人間の孤独みたいなのが伝わる映画です。
*26<400>「ザ・メキシカン」
ゴア・ヴァービンスキー監督。ブラッド・ピット。ジュリア・ロバーツ。ジェームズ・ガンドルフィーニ。
伝説の銃「メキシカン」をめぐって繰り広げられる争奪戦。そこに、組織の鉄砲玉をさせられているドジにいちゃん。そして鼻息の荒いしっかり姉ちゃんの恋のドラマが絡む。
とはいっても、話は一直線には進まない。にいちゃんはメキシコで相変わらずドジなドタバタを繰り広げる。一方、姉ちゃんはゲイの殺し屋おじさんと理解しあっていたり。
なんとも伝説の銃も貴重品にしては扱いもぞんざいにされたり。その伝説やら因縁やらも胡散臭い。そんなまがい物感覚がいっぱいなのだ。ブラピは田舎丸出しのアホ役が似合ってはいるが。
*27<401>「タイタンズを忘れない」
ボアズ・イエーキン監督。デンゼル・ワシントン。キップ・パルデュー。ビル・パットン。
1971年米国はまだ黒人と白人が和解していなかった。かろうじて公民権運動の成果で黒人と白人の共学が実現した。その学校のアメリカン・フットボール・チームがタイタンズ。ヘッドコーチには黒人のブーンが、白人のヨーストに代わって就任した。
お決まりのようにチーム内はもちろん町も黒対白の確執の尾を引きずっている。その対立を超えて信頼を醸成していくのはタイタンズが勝つことだった。そうしたチームが成長する姿をいかにもディズニー映画風に隙なく描いていく。
この映画はいささか建前を描いている。だけども、米国の強さを象徴的に教えてくれている。困難があるからこそ、我々は強い。そういう米国に、僕らは返すべき言葉を持たない。
*28<402>「トラフィック」
スティーブン・ソダーバーグ監督。マイケル・ダグラス。ベニチオ・デル・トロ。キャサリン・ジータ・ジョーンズ。
今年のアカデミー賞の作品賞を受賞。ベニチオ・デル・トロは助演男優賞を得ている。その名に恥じぬ力作だ。
テーマは現代の最も厳しい内戦である麻薬戦争だ。メキシコのティファナでカルテルと戦う刑事たち。サンディエゴで摘発された密輸業者の身重の妻の身すぎ。麻薬撲滅を掲げる米国の判事の崇高な理想と娘のジャンキーへの転落。それらのエピソードが少しずつ絡みながら映画は転がっていく。
過剰にならず、感傷的にもバイオレンスにもならず。ざらざらとした映像のメキシコがなんとも印象的だ。
マイケル・ダグラスとキャサリン・ジータ・ジョーンズにはちょっと困るが。麻薬の持つ現代社会破壊の底知れぬ怖さを見事に描く。そして、案の定、映画は終わっても物語は終わらない。この不快感はどこか現代社会を生きる不快感につながっている。
*29<403>「天使のくれた時間」
ブレット・ラトナー監督。ニコラス・ケイジ。ティア・レオーニ。ドン・チードル。
これってハート・ウオーム・シネマってやつか?
ニューヨークのシティで投資顧問会社の社長をしているジャック。彼は13年前、恋人のケイトと別れてロンドンに出発した。そしてクリスマス・イブの夜。成功したが資本主義の申し子となった彼は虚しい気分に襲われる。そして偽の宝くじを持っている黒人青年に会う。「これから起こることは、あんたが招いたことだ」という不思議な言葉。その翌日、彼は別れたケイトと子供と暮らしている自分に気づく。
まあ、いかにも米国映画らしいドタバタが始まります。結論は、彼が一夜の夢から醒めてどうするか、です。あたしや、13年前の彼女とゴールインするなんて強引すぎると思うね。資本主義に生きる人間の罪滅ぼしのための一夜の夢なんて。ニコラス・ケイジの裸同様、きらいだね。
*30<404>「隣のヒットマン」
ジョナサン・リン監督。ブルース・ウィリス。マシュー・ペリー。ロザンナ・アークエット。ナターシャ・ヘンストリッジ。マイケル・クラーク・ダンカン。
冴えないモントリオールの歯科医。悪妻とその母に苛められて地獄の日々。隣に引っ越してきたのは噂のシカゴ・マフィアのヒットマン。それを利用したれ込み料と夫殺害を手にしようとたくらむ妻。夫は泣き泣きシカゴに来るがマフィアに脅されさんざん。だが、ヒットマンの妻に一目惚れして、恋の炎がめらめら。
ヒットマン、その妻、マフィアのドンの3人には1000万ドルの遺産の約束があった。それを成就させるには3人の同意書か死亡証明書が必要だった。命懸けの駆け引きが始まる中で、歯科医に活路は開けるのか?
というとハードボイルドですが、そんな話をコメディにしたので、笑えます。いつもひどい目に遭っているブルース・ウィリスも余裕綽々。カナダのバーガーのマヨネーズギャグって、笑える?
*31<405>「ショコラ」
ラッセ・ハルストレム監督。ジュリエット・ビノシュ。ジュディ・デンチ。ジョニー・デップ。キャリー=アン・モス。
昔々(らしい)フランスの田舎町がありました。そこはしきたり厳しいカトリックの町で、由緒正しい伯爵が仕切っていました。ある日。北風とともに母娘がやってきて、チョコレート菓子の店を開きました。町の人たちは次第にチョコレートの虜に。
ところが、季節は断食の真っ最中で、守旧派の人たちは敵意剥きだし。さらに、船で放浪の民がやってきて、親しくする母娘は孤立に追い込まれる。だが、どんなに困難があっても、最後にショコラは勝つ。
メルヘンですね。とりわけ、母娘と流浪の民を通じて固定化する社会に風穴を空けるのは両義的。とりあえず、チョコレートがおいしそうでした。
監督は「ギルバート・グレイプ」「サイダー・ハウス・ルール」でおなじみ。今回は力みなく楽しめます。
*32<406>「クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」
ほんらい、子供アニメなんて見ないのですが、ホームページの掲示板に書き込みをいただいたので、見せてもらうことにしました。
ひとことで言うと、感動しました。20世紀の匂いへの郷愁を組織化するケンとチャコの同棲時代コンビ。21世紀を生きようとするしんちゃんとカスカベ防衛隊。20世紀に匂いに敗れてしまうオトナたちに対して、未来を奪うなと、しんちゃんはまさに本能的に立ち上がります。
だれもが懸命に生きた時代に郷愁を持つものです。そして思い出によって組織化された時代は美化されます。「20世紀博」は私にとってもオトナ帝国の奴隷たることを強いそうです。ケンの「夕焼けは人を振り返らせる」という言葉は心に沁みます。
だが、しんちゃんはオトナが子供になってしまったら、子供がオトナになれないことを訴えるのです。ラスト・シーンの「ズルイゾ」というしんちゃんの言葉は鋭いものがあります。
「ケンとメリー」(BUZZ)「白い色は恋人の色」(ベッツイ&クリス)。そして「今日までそして明日から」(吉田拓郎)。夕焼け色の絵柄に流れる歌は沁みます。これが子供アニメかと驚かされる傑作です。パンフのパクりになりますが、日本国の首相にも見てもらいたい作品です。
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