本文へスキップ

北海道文学を中心にした文学についての研究や批評、コラム、資料及び各種雑録を掲載しています

電話でのお問い合わせはTEL.

シネマミーハーらくがき帳 1999〜2003
 なんというか、映画に嵌まっていた頃があり、雑文を書きまくっていた。

 シネマ・グラフィティ・ノート 1999年 その11   

196 「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」
トーマス・ヤーン監督。ティル・シュヴァイガー。ヤン・ヨーゼフ・リーファース。モーリッツ・ブライトロイ。
 重病で命の日々の残り少ないマーチンとルディ。「天国じゃ、みんな海の話をするんだぜ」。酒を飲んでいるうちに、そんな話になった2人は100万マルク入りのベンツを盗み、銀行を襲い、ドタバタの最後の旅に繰り出した。一方、2人のためにドジを踏まされたのがギャングの底抜け2人組。警察とギャング、そして病気の2人の、男たちの戦いが始まった。
 日本に来るドイツ映画はみんなエネルギッシュだ。
 「バンディッツ」も「ラン・ローラ・ラン」も「ビョンド・サイレンス」も。男たちがもう怖い者なしになって、好き放題やる姿がカタルシスになる。ボブ・ディランの名曲をモチーフに。天国へのドアを2人がたたく。きっと、波の音が聞こえるのだ。「ローラ」に出ていたモーリッツ・ブライトロイもギャングでいい味出していた。

197 「ファイト・クラブ」
デイヴィッド・フィンチャー監督。ブラッド・ピット。エドワード・ノートン。ヘレナ・ボナム・カーター。
 「セブン」のコンビが復活した。デイヴィッド・フィンチャーとブラッド・ピットと。
 男たちは殴りあう。殴り合うことによって自分の周りにつきまとっている虚飾を剥ぎ取っていく。人間と石鹸とダイナマイトと。そいつは実は同じなのだ。
 世紀末の消費社会に素っ裸で、手のひらに痛みを感じながら男たちは立ち向かう。
 崩れ落ちる高層ビル。手をつなぎあう瀕死の男と、そして女。
 「すべてを失って初めてどんなことでも自由にできるようになる」。ブラッド・ピットのタイラー・ダーデンはそう、ジャックに言う。そうなのかな。いずれにしろ不眠症は怖い。

*198 「ワイルド・ワイルド・ウエスト」
バリー・ソネンフェルド監督。ウィル・スミス。ケヴィン・クライン。ケネス・ブラナー。
 西部劇のノリにSFXアドヴェンチャーのテイストをたっぷりと加えました。豪華です。絢爛たる美術品の世界に似ています。
 物語はたいしたことないのですが、個別個別の展開が面白い。それぞれの小道具がマニアックに凝っているのね。首切りブーメランも怖いし、25メートルのおばけタランチュラもいけてます。細部の凝り具合を楽しんで見ればいい映画でしょうか。

*199 「カスケーダー」
ハーディー・マーティンス監督・主演。レグラ・グラウヴィラー。ハイナー・ラウダーバッハ。
 このスタント・バカはどこのドイツだ、って? うーむ。ハーディー・マーティンスはやりました。とにかく「CGなんかくそくらえ」と自前のスタントでがんばります。
 その迫力が凄い。唯我独尊万歳です。
 ナチの秘宝2億5000万マルクの価値のある「琥珀の部屋」を悪の秘密情報組織と追いつ追われつの争奪戦を繰り広げます。いやあ、ドイツの子供のへたくそな演技も楽しめます、って。

200 「エイミー」
ナディア・タス監督。アラーナ・ディ・ローマ。レイチェル・グリフィス。ベン・メンデルソン。
 ロッカーの父親の死をきっかけに耳も口もふさいでしまった9歳の少女エイミー。彼女が心を閉ざした真相を解きほぐし、希望を回復していく物語。
 オーストラリアの下町。へんな奴ばっかりが暮らしている。お掃除おばさん。売れないロッカー。修理兄弟。でも、そんな彼らの優しさに触れてエイミーが心を開いていくのがいい。
 まったくミュージカルだぜ。
 母親役のレイチェル・グリフィス。この人は貧乏くさい役が決まっている。「日蔭のふたり」の冴えない女房、「マイ・スィート・シェフィールド」でのデカパイ・クライマー。本当にいつも不幸が似合っている。
 でも今回はようやく未来が見え始めた。「シャイン」もそうだったが、オーストラリアからの感動はジーンと来る。

201 「ジャンヌ・ダルク」
リュック・ベッソン監督。ミラ・ジョヴォヴィッチ。ジョン・マルコヴィッチ。フェイ・ダナウェイ。ダスティン・ホフマン。
 オルレアンの聖少女。フランスをイギリスから守った15世紀の救国娘ジャンヌ・ダルクの人間に迫る。少女は風の音の中に、神の声を聞く。フランスを神の手に委ねるために兵を挙げる。そして、オルレアンの奇跡の勝利を導くが、王の裏切りによって、敵の手に落ち魔女裁判により火刑にされる。
 リュック・ベッソンはいつも魅力的な少女を描いてきた。ここでも中性的なジャンヌ・ダルクを見事に作り出した。彼女の爽やかなオーラが画面を圧倒する。民衆の意志を象徴し、ラジカルに突き進むジャンヌ。しかし、それは秩序によって排除される。その存在の葛藤は切なく熱い。
 惜しむらくは解放感がない。レオンやニキータの時代をうち砕くパワーが欲しかった。
 *「フィフス・エレメント」をビデオで見て、ミラ・ジョヴォヴィッチを思い出してみた。愛に飢えた至高の存在というトリッキーな役を楽しく演じていた。ジャンヌ・ダルクは成長したのだろうが、やや内省的すぎる。

202 「白痴」
手塚真監督・脚本。浅野忠信。甲田益也子。橋本麗香。草刈正雄。藤村俊二、江波杏子。
 坂口安吾の原作を映像作家が現代に蘇らせた。
 戦争はオーウェル的な「1984」の世界で見直されている。情報メディアはいつも戦争の旗振り役である。そこを民衆は騙されているとしりつつ見ているのはいつの時代も同じだ。
 狂気も白痴も時代を映す鏡である。<きちがい>は時代が病んでいることを。<白痴>は知への不信の表明である。手塚は見事に時代の気分を表現して見せた。
 そんなすさんだ時代にも愛こそはすべてに勝つ。これをプロキノと呼ばずにいられようか。

203 「ダブル・ジョパディー」
ブルース・ベレスフォード監督。トミー・リー・ジョーンズ。アシュレイ・ジャッド。ブルース・グリーンウッド。
 同一事件で2度裁かれないという「二重処罰の禁止」。この法律があるのは知っていたが、本作はその危険を冒そうとする女性の物語。
 その危険とは「夫殺し」。無実の罪で獄につながれた彼女は夫が生きていたことを知る。仮釈放を得て、保護観察の状況下で姿をくらました夫に迫る。
 アシュレイ・ジャッドが魅力的だ。トミー・リー・ジョーンズはちょっとくたびれ気味。
 明快なテーマに小気味よい展開で、楽しめる。

204 「エル」
ルイス・ガルバン・テレシュ監督。カルメン・マウラ。ミュウ・ミュウ。マリサ・ベレンソン。マルト・ケラー。
 ポルトガルのリスボンを舞台に5人の女性たちが繰り広げる愛と人生。美しい画像の半面、内容的には極めて不評とのことだったが、さて。
 実は知っている女優は「ドライ・クリーニング」のミュウ・ミュウだけ。なんか爽やかなようで濃いなあ。で、話が薄いのだなあ。おばさんたちの応援歌ではある。

205 「御法度」
大島渚監督。松田龍平。ビートたけし。武田真治。浅野忠信。崔洋一。田口トモロヲ。
 大島渚復活、入魂の一作です。
 京の町のテロリスト集団・新撰組。そこに2人の隊士が入る。田代彪蔵と加納惣三郎。惣三郎は前髪を垂らした美形の剣士であった。彼の入隊で、鉄の組織はみんな少しずつ狂っていく。
 この映画への不評が目立つが、オレは気に入った。組織が狂気へと移り変わっていく弾機を見事に捉えている。男色は組織が内閉していくことを映す鏡だ。
 深く落ち着いた色調が緊張感を伝え、美しい魔物に取り憑かれた集団が解体することを鮮やかに暗示して見せた。

206 「ランダム・ハーツ」
シドニー・ポラック監督。ハリソン・フォード。クリスティン・スコット・トーマス。
 警察内部調査班の刑事と女性下院議員。その妻と夫が同じマイアミ行きの飛行機に乗り合わせ事故死した。二人は夫婦と名乗って週末の不倫旅行に出かける途中だった。その事実を知って、残された2人は、足取りを追い始める。いがみ合う2人だったが、次第に友情以上のものが芽生えていた。
 大人の恋の物語です。なんか死んだ2人の性生活の残り香みたいなものが欲望をかき立てる。そこはよくわかるのですが、個人的には物足りないものがありました。
 ハリソン・フォード。やっぱり、真っ正直な男じゃなあ。口が曲がっているだから、どこかでひねりがないと。なんともホームドラマ的なハッピーエンドにオレはぶうたれていたのでした。

207 「200本のたばこ」
リサ・ブラモン・ガルシア監督。ベン・アフレック。ケイシー・アフレック。ジャーニン・ガラファロ。クリスティーナ・リッチ。
 1981年12月31日のNY。ニューイヤーイブの夜をはらはらいらいらしながら迎える人間模様。なんとなく友達のまま5年も続いている男女、早く大人になりたい娘たち。そんな風俗を楽しく描いた作品。

208 「ペルディータ」
アレックス・デ・ラ・イグレシア監督。ロージー・ペレス。ハビエル・バルデム。
 ラテン系の悪女ものですか。ロメオとペルディータの2人が辿る戻り道のないハードな戦いの旅。凄いです。いやあ「人生の楽しみはセックスと殺人」ですから。
 「ファックでビッチなイカれた女」ってコピーは効きます。ワイルドな女と男の道行きのヒートアップが快感です。

209 「ゴージャス」
ヴィンセント・コク監督。ジャッキー・チェン。トニー・レオン。スー・チー。
 原題は「玻璃樽」ですから、まあメッセージ・イン・ア・ボトルです。台湾から香港に瓶を拾った女の子がやってきて巻き起こす騒動。
 ジャッキー・チェンですから今回も魅せます。ちょっと純愛モードが入りますが、いいです。臭さが慣れっこになると堪能できます。

210 「Pola X」
レオス・カラックス監督。ギヨーム・ドパルデュー。カテリーナ・ゴルベワ。カトリーヌ・ドヌーブ。
 さてさて困った映画である。ブルジョワ青年ピエールは何不自由のない生活をしている。恋人もいる、魅力的な母もいる、覆面の新進作家でもある。その彼が父親の外交官の秘密の行動にだけはちょっと疑問を持っている。それが森の中で「姉」イザベルに出会ってから、少しずつ狂い始める。墜ちて堕ちて行く。真実を、本当の自分を探して。
 いやあ、真実なんて関係の中にしかないのは自明なのに。青年は必死なのは判るが、困った君なのだ。そんな問題作である。

211 「GTO」
鈴木雅之監督。反町隆史。藤原紀香。田中麗奈。
 人気テレビドラマの映画化だそうだ。それらしい軽さだが、結構青春ドラマとしては面白かった。どれもパターンを抜け出していないのだが。
 でも田中麗奈ちゃんが、嫌われ者のいいとこのお嬢さんってのが決まっている。藤原紀香の新聞記者らしくない、おとぼけぶりも。
 いやあ、社会部から文化部へは左遷だよ、っていう社会認識は鋭い。
 青春ドラマを見て、たまにアホになるのもいい。

212 「ブレア・ウイッチ・プロジェクト」
ダニエル・マイリック&エドゥアルド・サンチェス監督。ヘザー・ドナヒュー。マイケル・C・ウィリアムズ。ジョシュア・レナード。
 1994年10月21日、3人の学生がメリーランド州にある森に入った。そこは魔女伝説の残る森だった。順調に見えた撮影も次第に道に迷い何者かに負われる旅となった。
 1本のドキュメンタリーフィルムはその謎を解けるか?
 こんな騙しの楽しみで、こんなに客を呼ぶことがホラーというべきか。

213 「海の上のピアニスト」
ジュゼッペ・トルナトーレ監督。ティム・ロス。プルート・テイラー・ヴィンス。メラニー・ティエリー。
 1900年に米欧航路船ヴァージニアン号の上で生まれた幻のピアニストの物語。彼は生涯一度も海を降りることがなかった。だが、彼の音楽は多くの人の心を慰め熱狂させた。
 1900という名前の彼はトランペッターのマックスを一人の友としていた。物語はこのマックスの回想で進む。ちょっと「タイタニック」を思い起こさせる。
 全編に表情豊かな音楽が流れ、ピアノが縦横に流れる。「アメリカ万歳」はいただけないが、なおかつ心を揺するものがある。
 ティム・ロスの哀愁を帯びた演技が印象的である。

シネマらくがき帳 目次 へ

■トップページに戻る



サイト内の検索ができます
passed